一番やっかいな奴

03

ある日の事。
新一年生もだいぶ中学生活になれたみたい。
私はいつも、嫌いな教科になると、すぐにまた、あの部屋に入る。
そう、秘密の部屋。
今日もいつも通り、小さな穴を通って、部屋に入る。
今日は雨。寂しいひと時。
お母さんの声がよみがえる。

一歩部屋に入ると、すぐ分かった。
今までになかったこの感じ。
すごく、すごく嫌な感じ。
思わず背中にしまってあった真っ白な羽が、 少し出てきてしまった。
あわてて隠そうとしたけど、目の前の恐怖に、 しまうことができなくなっていた。
目を閉じることもできず、その場から立ち去ることもできず、 目の前の現実に、立ち向かった。


金縛り。

目の前にいる、真っ黒な羽を背中に付けた人間で言う、不良みたいなヤツが、こっちを赤い眼で睨んできた。

私以外に来る人がいるなんて。
しかも人じゃない。
私と似ているけど、あれは・・。

信じる人なんて、この世にはいないだろう。
でも私は、その、信じていないものそのものだから。
ヤツがなんだかも、すぐ分かった。

悪魔。

うわー、一番やっかいなヤツが来ちゃったよ。

やっと恐怖も収まってきて、目の前の悪魔に冷たい一言を言ってやった。

「出てって」

短い言葉にはいろんな意味を持っている。
でも、私がこのとき使った意味は・・・。
ただたんに、”悪魔に出て行ってほしかったから”だよ。

悪魔は、思ったとおり、言い返してきた。

「おぉぉ!!天使ちゃんかよ!ってか出てって、はひどいってぇ〜」

みんなが信じることのないもの、私は天使。
そしてあいつはおちゃらけ悪魔だ。
あいつのことは忘れたときなんて一時もない。
その軽い態度が逆に怖いのよ。

「出てって」

もう一発。
絶対出て行ったら普通の人間になりすまして、私みたいに、普通に生活とかしちゃうだろう。
だから、早く魔界に帰ってほしいんだけど。

「おぃおぃ〜〜。またかよぉぉ〜。というかさー、天使ちゃんのクセに悪魔みたいな態度だねぇ〜」

「ッ?!」

何なのコイツ・・・。
私を悪魔にする気なの?
それだけは、マジ勘弁なんだけど。
仕方ない。強制的に魔界に返すか。

「いっそのこと悪魔になっちゃえば?」

悪魔が言葉を発したその直後、私は天使としての魔法を使った。

「出てって、て言ってるのに。」

「ん?え?あ?っ・・・。うげっ!!ぐっぇっ!!」

風の力を使って、魔界へ放り返した。

「ばぃばぃ|」

こんな雨の日、いつもなら、お母さんの声を思い出すのに、 今日はなんで、悪魔なんかと会っちゃったんだろう。
一体何年ぶりよ! 悪魔と会うなんて・・・。
しかも、このおちゃらけ悪魔!

そういえば―……
昔、天界にも天使と偽った悪魔がいた。
あいつがいた私の過去は、死んでも思い出したくない。


03エンド
2009/5/6 : 加筆修正