終わらない死

01

悪魔に付けた名前。
死んだ友達の名前。
"羅緒"は私の"(しもべ)"でもあり、"敵"でもある。

その気になれば、お互い何時でも殺す事ができてしまう。
そんな環境。
周囲を見渡しても、生きた人間の気配はない。

生臭い血の臭いと、生々しい数の死んだ人たち。
犠牲者は、増殖するばかり。

誰か、私を止めて……地獄を………変えて。

*

人がいっせいに、こんなにもたくさん死んだ。
これが羅緒の力。そして……私の力でもある。

そんな死体の上を、私達は飛んでゆく。
そして私は尋ねた。

「羅緒、どこへ行くの?」

コトバには出さない羅緒。
でも、人差し指を遠くの方に見える島に向けている。

無人島のような、小さな島。

「あそこなら・・・犠牲者はもうでないよ」

ぼそっ、と、呟くように羅緒は言う。
確かに―……あそこなら、きっと大丈夫だろう。
もう殺さないですむ。
狂わないですむ。
自覚してるからこそ、こんなにも苦しいモノなのだと。
だけど私は、ふいに狂ってしまう。
殺っている間は、何にも感じないのに、その後に感じる、後悔とむなしさ。
自分はなんでこんな事になってしまったのだろう。
考え出すと、キリがなかった。

*

「着いたね……」

独り言のように呟く。
それが羅緒に聞こえてたかは知らないけど。

「ここは僕の隠れ家」

隠れ家?この島が・・・羅緒の家?

「たった1人で?」

羅緒は、静かに頷く。
さっきと打って変わって、おとなしい。

「月和も―……ここに住んでいいんだ?」

尋ねると、また静かに頷いた。
……この島で、これから過ごすんだ。

「食べ物は、適当に食って。時々外に行って食料奪ってくるから」

そんな事してたのか。
なんか聞いたことある。
まだ小さい頃、母親に。
時々商店街の食べ物が全てなくなってしまうときがある―……と。
そんな時は、決して近づいてはダメなんだと。
もしもキケンを感じたら、この鏡を使いなさい、と。
母親が死んだ後、家に帰って留守電を聞くと、懐かしい母の声が聞こえて。
泣きじゃくりながら、母の手鏡を、強く強く、握り締めた記憶がある。

私は、羅緒が島から出て行ったのを確認し、こっそりとポケットにしまっておいた、手鏡(破片だけだけど)を、そっと取り出した。

「あっ」

ガラスの小さな破片が、指に刺さって血が流れる。
さほど痛みは感じられなかった。
だけど血は止まらない。

たまたま持っていたハンカチで、指を縛る。
すると血は、みるみるうちにハンカチへと吸い取られてゆく。
普通なら、ハンカチは血をすった事で汚れるハズ。
だけどハンカチは、何事も無かったかのように、一切汚れていなかった。

不思議に思った私は、ハンカチをどけ、傷口をよく見てみた。

「―…傷跡が……消えてる…………」

何もなかったかのように、傷は綺麗に消えていた。
不思議に思った。なんで?どうして?

私は、それ以上考えるのが怖かったから、思考を停止させた。

*

「ただいまー」

空から戻ってきた羅緒。

「おかえり〜。わー。なんか食料一杯……!」

きっと全部盗んできたモノだろう。

「食べる?」

「食べる!!!」

私は、即答した。


「ホラよ。」

羅緒が、果物を丸ごと投げてきた。
反射的に、手を指し伸ばす。
キャッチ、と思った、その時だった。

「うっ―…うあ……うぁぁああああ!!!!」

羅緒が突然、苦しみ始めた。

「どうしたの?ねえ!!羅緒???!!!」

羅緒は、顔を歪め、何かを訴えかけようとしていた。
でも、口からあふれ出る血の塊に、どうしようもないようだった。

「羅緒!羅緒!死なないで!月和どうしたらいいの?!」

パニックだった。
神経がやつれて、今にも狂いだしそうだった。
役立たず。また、犠牲者を出してしまうの?

そう思った。

羅緒は、それから数時間苦しみ、落ち着いた頃には、明るかった空も暗くなり始めていた。

辺りは血だらけで、羅緒は血で汚れ生臭い悪臭を放っていた。
よくみると、羅緒の皮膚は、所々剥がれ落ち、中から蛆が湧いていた。

「羅緒―…?」

白目を向いて、血色の泡を吹く羅緒。
もう―……息はない。




また、犠牲者を出してしまった。
私は、何もできなかった。
たった一人の僕さえも、殺してしまった。

原因は、一体なんなの?

「どうしたら……!」

涙が溢れた。
独り、虚しい時間。
この無人島に今いるのは、私と、死体一体のみ。

崩れ落ちてゆく未来。
私にはもう何もできないの?

そんな事を思い始めた時。
指にきらきらと光る、小さな小さな破片を見つけた。



「かが―…み……?」



それは確かに、怪我をして、血が出て、傷が綺麗に無くなった場所に、埋まるようにしてあった。

まさか……これが原因?

この光を見て…………羅緒は苦しみ、死んだ。元の形さえも、保っていない状態で。






「こんな鏡!!!!!」


私は、ポケットから全ての破片を取り出し、地面に叩きつけようと思った。
大きく手を上に振り―…そこで止まった。

できない。
これは母の形見だもの。
たった一人の母親の……大好きだったお母さんの、形見なんだもの。



これを失ったら、私は今度こそ独りぼっちになってしまう。



「お母さん・・・月和どうすればいいの?もうこれ以上死を受け入れられないよ……」



誰もいない無人島で、独り孤独に呟いた。


終わらない死エンド
2009/5/6 : 加筆修正