鏡に映った者は灰となって消えてゆく
ふと、気になることが頭をよぎる。
あの時も、あの時も、あの時も……。
この鏡が関連してた―……?
きっとそうだ。
この鏡は呪われてるんだ。
誰に?
―…死んだお母さんに。
*
「この鏡のせいなの……?」
答える人はいない。
「お母さん。貴方の呪いなの?」
聞こえるのは、ザッ―…と流れる風の音だけ。
1人、無人島に姿を隠す月和。
月和は鏡の破片を強く握り締め、涙をぽろぽろと零す。
「もうやめて……もうこれ以上殺さないで………!!」
鏡の破片に映ったカラスが、鈍い音を立てて地面へと落ちる。
「お願い……お願い………!」
鏡に映るもの全てが死ぬ。
「月和、苦しいよ。辛いよ。月和は映っても死なないのに、どうして他のものは死ぬの?」
人も動物も自然も、全てが死んでゆく。
鏡に映るだけで、呪われる。
「お母さんは何が目的?月和を苦しめたいの?そうなんでしょ!!!」
鏡の破片に映る自分に叫び、涙を落とす。
鏡の中の自分に、涙が落ちる。
月和は、今度こそ鏡を完全に割ってしまおうと、鏡を大きく上へ上げる。
「どうして?どうして!!こんな鏡、割っちゃえば……そしたらもう呪われずにすむのに!」
躊躇ってしまう。
月和の手は、そこで止まってしまう。
「これさえ壊せば、もう誰も死なないのに!」
震える手。
割ることを拒絶してる。
頭では割ろうとしてるのに、体は言う事を聞かない。
「お母さん……お母……さん」
破片を握り締める手から、赤い液が次々と溢れ出す。
不思議と痛みは感じられない。
ゆっくりと、肩を落とし、崩れる足。
座り込み、泣きじゃくる月和の後ろに、一つの影が忍び寄る。
「月和。キミは愚か者だよ」
声がした。
「え?」
気が付いたときにはもう遅かった。
「死んでよ」
「ら……お……?」
死んだはずなのに。
鏡に映って死んだのに!
あ……
「―……!!!!」
眩しかった。
「サヨナラ。月和。鏡の月和。」
不気味に笑う羅緒を、瞳の中の鏡でしっかりと映していた。
でも、羅緒は死なない。
一度死んで、生き返った羅緒は、溶け狂う月和を淡々とした様子で伺っていた。
手の中で粉々になった鏡。
それと同時に、月和の顔も粉々になった。
赤い血と共に。
「鏡の呪いは月和の母のモノじゃない。キミ自身のモノなんだよ―……。あはははッ!バカな月和―……」
僕は甲高い声で、しばらく不気味に笑っていた。
月和は死んだ。
鏡と共に。
****
高いビルが立ち並ぶ都会。
そんな大都市の都市伝説を知っていますか?
「ねえー知ってる?この都市の都市伝説。」
「何それー?知らないー教えて!」
「あのね、向こう岸に見える島があるでしょ?」
「うん。よく大人たちが漁に出かける時、あの島の近くまで行くんでしょ?」
「そう。でもね、あの島へ近づく時、もしも手鏡を持ってたら……」
「持ってたら?」
「1人の少女に呪われて、1人の少年に殺される。」
「何それー!全然怖くないよ!そんなのデマでしょー??」
「だよねー!それにあたし、あの島の近くまで行った時、普通に手鏡持ってたし!」
"あははははッ……あはははッ"
「―…?今、なんか笑い声聞こえなかった?
「え?何にも聞こえなかったけど……」
「そう?」
「それより、化粧崩れてる。」
「ウソ!鏡持ってないー?」
「え?美紀持ってるじゃん。スボンのポケットから見えてるよ。」
「―……?ほんとだ……どうして……」
「どうしたの?」
「あたし、この手鏡、あの島へ行った帰りに、海へ落としてきちゃったんだよ」
「え……何それ……からかってるの?」
苦笑いする。
手鏡を手に取り、化粧直しをしようと鏡を見る。
そこに映っていたのはー・・・
"こんにちは。やっと窮屈な所から出られたよ。月和、狭いところ嫌いなんだ。あなたは?"
「い―………嫌ぁぁぁああッ!!!!!!!!!!!!」
ぐちゃぐちゃに崩れた、血まみれの月和の顔。
カラン、カランッ
手鏡は道路を映して落ちた。
なのに、次に見たとき、まるで勝手に動いたかのように、空を映していた。
「月和、惨めだねー。そんなところで。あのコ達をどうするのさ?」
「うるさいわね。なら貴方が変わりに入ってくれる?」
「まさか。遠慮しとくよ。」
少年は、不気味な笑みを浮かべて、走り逃げた女のコ二人を見つめていた。
END
呪いの鏡エンド
2009/5/6 : 加筆修正