狂喜(きょうき)

01

いつも誰かに見られているような気がする
そして中毒のように、手放すことのできない鏡を持って
映る自分が怖くなる

きっと抜け出すことなんてできない
だってもう
姿映しのゲームは始まってしまったから

*

私は手鏡に、羅緒を映した。

「く……苦しいよっ………うっ…!!ああああああっ!!!!」

うめき声を上げたかと思うと、羅緒は真っ赤な血を口から吐き出した。
道路が赤色に、染まる。
一緒にいた友人らしき人が、羅緒を凝視する。

「羅緒、さようなら」
私はひどく冷たく言い放つと、持っている鏡を、この手で割った。
カランカランと音を立てて、鏡の持ち手が落ちる。
割れた破片が手に食い込んで、赤い血が滴った。

周りにいた友人は、私を見て、真っ青になる。声も出ないらしい。
やがて羅緒は、首を掻き毟って死んでいった。

「あは・・・あははははは!!!!」

ぐったりとした羅緒を目の前にして
笑いしか零れなかった自分が


怖かった
恐ろしかった


だけどもう戻れない
鏡を割ってしまったから
もう呪いは解けない



「その一言が命取りになるんだよ、羅緒」


低く低く
冷たい眼差しで睨む

もう二度と起き上がることのない
その姿を
手のなかの
割れたガラスに映して




「あははははははははははははははッ!!!!」



ザーッ


雨が降るその暗い世界で
犠牲者は増えつづける


やがて、騒ぎを聞きつけて野次馬や警察がやってきた。
だが、私には目もくれず、毒殺だろうと判断したようだった。

私は割れた手鏡をポケットの中に入れる。
血で染まったはずの白い手は、いつのまにか切り傷もろとも無くなっていた。

大都会の一角で、私は一人の女の子を殺した。


狂喜エンド
2009/5/6 : 加筆修正