その日から、平凡な日常と引き換えに、非日常な毎日がやってきた。
日本のどこにでもあるような市長村に住んでる、一般的で平凡で、そこそこ幸せな家庭に恵まれた、そこそこ普通の家にすむ、どうみても普通の一般市民である幾多空は、今日も自室で苦手な数学と格闘していた。
「ああっもう!!ここの問題訳分かんない!!意味分かんない!!」
「だから、ここはこうして……」
「何でそうなるの?何で?ってかそもそも公式とか、まだ覚えてないから!!」
「そこからか……、よし、分かった。先生が悪かった。ちゃんと教えるから、頼むから分かってくれ。」
先生もお手上げ状態のマンツーマンの数学授業。
空は、特別頭のいいほうではない、いたって普通の成績だ。
だが、どうも数学だけは苦手らしく、どれだけ詳しく教えても、次から次へと膨らむ疑問に、いちいち答えなくてはならない先生も、毎回頭を抱えていた。
疑問が多い、そのクセ1度や2度解いたくらいでは、数学の公式を覚えない。
他の人が1回聞いただけで解ける問題に、何時間もかけて理解する。
今までの空は、"分からない"を膨らますと、必ず次から次へと疑問が沸いて出てきて、結局モヤッとしてイラッとするから、テスト等で出ても分からないまま放ったままだった。
しかし、今回ばかりはそうもいかない。
空は今年、受験の年だ。勝負の年だ。
だから、苦手を克服しようと必死なのだ。
だが、数学が分からなくなった2年間分の苦手を克服するには、空にとって、未知数の事だった。
分からない問題には、1つ解くだけで何時間もかかる、困った苦手っぷり。
一日に苦手な問題を3問理解すればいいほうだ。
とにかく、行きたい高校があるわけではないが、進路的に高校に行かないのは流石にマズイので、空は受験に受かるために、勉強をこうして毎日していた。
「ねえ、家庭教師って儲かるの?」
「それなりにな。って、そんな余談する間があったら、その問題解いてみろ!!!」
いわゆる、先生は家庭教師ってヤツだ。
空は家庭教師に週5回も教えてもらっている。
にも関わらず、一向に上がらない数学の成績に、両親も見守るしかできなかった。
「うーん……これはこうして……ん?待てよ……これはこっちとかけて……あ、足すの?え?あ、でもマイナスだから引くのか………よし、解けた!!!」
先生は、深い深い溜息を吐き、答案を見る。
そして、さらに暗い表情になった先生に、空は自信満々に「どう?どう?!」と聞いている。
まあ、言うまでもなく、空の答案は大外れだったわけだけれど。
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2009/5/14 : 加筆修正