今宵、貴方は愛に満たされる
突然リズミが大きな声を出したので、ティンカとイクは固まってしまった。
だが、テェルだけは口端を上げて、薄っすらと笑みを浮かべていた。
「そのいいようはないだろ?せっかくの可愛い顔が台無しだぜ?」
軽口を叩くような声で、リズミを挑発するように言う。
―……いや、挑発したのだ。
「仲間割れとか考えないわけ?対立した者同士で、戦いに成りかねない!」
リズミはヤケに必死だった。
敵だというのに、まるで心配しているかのようだ。
しかし、何か周囲に気配を感じると、リズミは落ち着きを取り戻し、静かに声を潜めた。
「―……。どうする気?もうそこまで来てるみたい。」
「はっ。逆らう奴には刑罰を―…下さないとなっ!」
テェルは嘲笑うかのように、草むらを見つめる。
「ダメ。殺しちゃダメ。絶対に。」
リズミは"死"が怖かった。
だから、こうなる事を考えずに行動に出たテェルに腹を立てていたのだ。
テェルはリズミに目を移す。
少し目が赤い。
だが相変わらずふくれっ面のままだ。
「―……安心しろって!俺、力加減が出来ねえほど未熟じゃねえぜ?」
テェルは、まるで小さな子をあやす様な口調で、だけど優しくリズミにそう言った。
\エンド
2009/5/6 : 加筆修正