××の恋

]壊れたリズム

リズムがマイクを強く握り、イクと目を合わせると、それは瞬く間に周囲へ流れた。

突如、流れてきた不協和音に、その場にいた敵全員がひるむ。
"攻撃"開始の合図だ。

「―……来る」

リズミが察したのと同時に、草むらから幾つもの花が飛び出した。
華麗に舞う花は、その美しさとは裏腹に、猛毒を盛っていた。
そしてそのスピードも、驚異的な速さを持つ。

「なるほど。敵は1番身近にいた奴ってわけか。"ドール"。」

テェルがそう呟くと、草むらの中から真っ黒なドレスを見にまとった、背の高い美しい女性が現れた。
普通にしていれば、モデルと言ったって過言ではないくらいの容姿。
そしてそれと同時に、花は地面に呆気なく落ちた。

「ええそうです。……ですが、裏切ったテェル様が悪いのです。」

威厳。それは美しすぎる顔に怖いほど溶け込んで、恐怖さえ覚えた。

「私達を裏切った事、後悔させて差し上げます。」

笑みを浮かべ、そっと手を上げる。
すると、地面に散らばった可憐な花々が、いっせいにテェルとリズミに襲い掛かった。

「ッ"和音"!!」

リズミは手の平を向かってくる花の方に向ける。
手から放出させる無数の光が音符の形になり、守るようにリズミたちの前に固まった。


ティンカは目の前の光景に、絶句していた。
だが次第に頭が回転するようになり、やがて自己嫌悪へと走った。

「どうなってるんだ……?僕のせいで……僕が兄さんの邪魔をしてしまったせいで……」

ティンカは頭を抱え込み、ふらつく足を懸命に前へと動かした。

仲間割れしている。
兄さんの仲間が。
兄さんと対立している。
たった一つの恋のために。

ティンカはリズミが創った音符の壁に近づく。

それに気が付いたテェルは、力を思わず緩めてしまったことにも気づかない。

「何してるんだ!ティンカ!後ろに下げっていろ!!」

ティンカははっとすると、後ろに後ずさりした。

再び前を向いたテェルは、前からふいにやってきた"花"に直撃し、後ろに吹っ飛ばされる。
唇が切れてそこから血が流れ出る。
手でぬぐうと、テェルはまた戦闘態勢に戻る。

相手はこちらを殺すつもりだ。
あまり手加減ばかりしていると、こちらが負けてしまう。

「リズミ!!こっちも本気を出さないと危険だ!!死を覚悟したほうがいい!!」

テェルは後ろからリズミに向かって叫んだ。
だがリズミは動じない。
ただただ攻撃から身を守っているだけ。

「リズミっ!テェルの言う通りだわっ!死ぬ気で戦わなきゃ、殺されるわよ?!」

手の中のマイク、イクも叫ぶ。
ようやくリズミが耳を傾けた。

「わかった。本気を出す。でも絶対に殺さないし殺されない。それだけは頭に入れておいて。」

リズミの声は、やけに響いて心に届いた。

徐々に、リズミのメロディーラインが崩れていく。

それは、リズミにとっての"本気"を意味する―……。


]エンド
2009/5/6 : 加筆修正