今宵、貴方は愛に満たされる
公園のベンチに、2人は座っていた。
リズミの隣に座ったティンカは、そわそわと先ほどから落ち着きがなかった。
「で、何?話すこと、何かある?」
先に切り出したのはリズミだった。
ティンカは慌てふためく。
「え…っと……リズミちゃんは、何歳?」
わざわざ呼び止めておいてするような話じゃない気がする。
言ってから、ティンカは恥ずかしくなりうつむいた。
「15。キミと同じ。」
だけどリズミは、嫌な顔一つせずに、淡々と答えた。
と、ティンカはふと疑問に思う。
なぜ自分の年齢を知っているのだろうか。
ティンカは必ずと言っていいほど、初対面の人には実際の年齢よりも低く見られてしまう。
だがリズミは、一発で年齢を当てた。
ティンカには、ただの偶然には思えなかった。
「あ、僕の名前まだ言ってなかったよね…!ごめん。僕の名前は―……」
「ミズノ。ミズノ・ティンカでしょ?知ってる。」
ティンカは驚いて、言いかけた口を開いたまま、リズミの顔をみる。
どうして自分の名まで知っているのだろうか。
リズミちゃんと僕が出会うのは、必然だったかというのであろうか。
ティンカはまた悩んだ。
そして考え導いた結論。
それは。
「リズミちゃん―……もしかして兄さんの友達?」
リズミよりも先に、リズミの手に握られているマイクが暴れだす。
「いい線いってるけどおしいわね!リズミとミズノ・テェルは―・・・」
「イク。」
調子に乗ってベラベラと全てを喋ってしまいそうだったマイクの"イク"を、リズミは首を横に振って悟らせる。
"言ってはならない"、と。
「え?何??兄さんとリズミちゃんって一体…どういう?」
ティンカは気になっていた。
だけど、兄さんに聞けばいいかと、あまり深くは追求しなかった。
その後、いくつかの他愛無い質問を交わし、日も暮れ肌寒くなってきたので、2人はベンチを立った。
「また会えるかな?」
ティンカの質問にリズミは、
「当たり前。本返してもらうまではね。」
微かに笑ったその顔を、ティンカは頬を夕焼けに染めながら、見つめていた。
と、そこに、一つの大きな影が2人の間に割って入る。
欠かさずリズミは姿勢を立て直す。
「よう。久しぶりだなあ」
砂埃の中から聞こえてくる声の主が、薄っすらと徐々に見え始める。
やがて全ての姿が現れたら、その場の空気が一瞬で強張った。
「まさか、こんな夕方の公園で再会するなんてね」
「ロマンがあるだろ?久しぶりの再会に喜べよ」
立派な黒い黒いマントが目立つ。
「…この状況で?それは無理。絶対無理。だってあたし達は―…」
「"敵"ってか―…?」
口の端を上げて、微かに笑うその姿は不気味で、それだけで敵意を感じられた。
「兄さん…!!敵ってどういうこと?!意味が分からないよ!」
1人状況を把握していないティンカは、頭の中をごちゃごちゃにして問いかける。
「…ティンカ。俺はな、"黒恋団"っつーまあ物語で言うと悪役みたいなもんを務めてんのよ。わかるか?」
テェルはティンカに自分の事を言っていなかった。
だから、今ここで初めてそれを言っている。
ティンカはなんとかして理解しようと、首を縦に振る。
「よし。じゃあ次いくぞ。」
それを確認したテェルは、次の説明へと切り替える。
「黒恋団とリズミは同じものを求めている、お互いに邪魔者通しなんだ。
っていうか、リズミは恋の力を悪用しようとしている俺らの団から、恋の力を救ってるだけなんだけどな。」
淡々と、淡々と、テェルはティンカに告げていく。
また、ティンカは、テェルが言うたびに頭を上下に動かし、理解しようと励んでいる。
「そーゆーわけで、対立して敵なわけだけど!それも今日今ここで終わる!」
「―…どういうこと?ミズノ・テェル。」
テェルはリズミの身長に背をあわせ、子ども扱いした様子でこう言った。
「"黒恋団"は、本日を持ちまして、解散いたします♪」
しばらくの沈黙の後。
「は?っざけんじゃないわよこの脳無し!!!」
いつも静かで冷静極まりないリズミが、珍しく思い切り胸のうちを叫んだ。
かすかすの空気がそこに広がる。
[エンド
2009/5/6 : 加筆修正