今宵、貴方は愛に満たされる
僕はその日、家に帰ってからも、ずっとあの子の事が忘れられなかった。
「ほんとに……どうしたんだろう。僕、どうかしてるよ。」
独り言のように呟いたその言葉に、反応した人がいた。
「なんだ?いつもに増して暗いなあ。どうしたんだ。」
声の主は、僕の兄さんだった。テェル兄さん。
「今日、公園のベンチにいた女の子に声をかけたんだ。」
なぜだか知らない。いつもなら、どんなに気になる子がいても、決して声などかけないのに。
ましてや初対面の他人。吸い寄せられるようにして、近づいて……。
気づいたら、声をかけていた。
「兄さん。僕、変かな。」
「いや、変なんかじゃない。ナンパなんて誰だってやってるって!」
陽気に笑いながら言う兄さんを
「ナンパじゃないって!!」
必死に否定する。
「じゃあ、なんで声なんか?お前、そういうキャラじゃないだろ。」
まじめな顔になって、僕に聞く。
「僕もわからない。ただ、ただ……。気づいたら……」
どうすれば。それに何か、込み上げて来る気持ちが、僕の中にあるんだ。
「……恋じゃないか?」
「え?!こ……こここ恋?!」
冷静な顔で言う兄さんに、僕は座り直して、面と向かって話す。
兄さんはこくりとうなずくと、僕の胸に指を向け
「ココ、何か感じるか?」
そう言った。
何か?そういえば……あの子と話しているとき……とてもとても熱かった。
今は今で、込み上げて来るモノがあるし……。
僕はうなずいた。
すると、兄さんはにっこりと笑みを浮かべた。
「うん。それは恋だ。お前、その子の事、好きなんだよ。」
……好き?僕が……リズミちゃんのことを?
……そうなのかもしれない。
だって、よくよく考えれば、僕だってもう15だし、恋をしてもおかしくない歳だし。
「でもでも!僕、リズミちゃんのこと何も……」
「リズミ?それがお前の好きな子の名前か?」
「あ、うん……」
「そうか……よし……わかった!」
兄さんはいきなり立った。
そして僕を指で指しこういった。
「俺に任せろ!その子の事を教えてやろうじゃないか!!!」
自身満々に、とても輝いた笑顔で。
Wエンド
2009/5/6 : 加筆修正