今宵、貴方は愛に満たされる
「ん―……」
目が覚めた。
僕は、なんだかいつもより、体が重い気がして……
そして思い出した。
僕……リズミっていう女の子に会って……えっと……
願い、叶った……のかな?
思い切って、たまたま落ちていた鏡を見てみた。
「あ…僕……僕…………」
"猫じゃない!"
そう叫ぼうとした時、背後から声が聞こえた。
「誰かいるの?」
キィィイっという音と共に、扉が開く。
そしてそこに立っていた、結菜ちゃん。
「結菜ちゃん!」
僕は、人間になった。
だから、今すぐに思いを伝えようと……
「誰……?」
!
僕が分からないんだ。
姿が変わってしまったから。
リズミちゃんと交わした言葉。
それは残酷だった。
"姿を変えると、もう二度と元には戻らない"
僕は、人間になるのなら、二度と元に戻らなくても良いと思った。
だけど、結菜ちゃんに分かってもらえなかったら、全然意味ない……。
「僕……あの、ミィ……なんだ……」
きっと、通じる"コトバ"があるから……
分かってもらえる。
「ミィ……くん?っていうの?」
「そう!僕は、結菜ちゃんに本当のことを伝えたく……」
言い終わらないうちに、結菜ちゃんはコトバを発した。
「こんな時間に、しかも人の家に勝手に入っちゃダメだよ。不法侵入。それに、ちゃんとお家の人に連絡した?」
え?
なんで?
僕は、今、6歳くらいの男の子の姿。
だけど、きっと結菜ちゃんなら、わかってくれると思ってた。
"僕……ミィだよ!結菜ちゃんが大好きな、猫のミィ!"
……なんて、いえるはずなかった。
だって、人間になったのは、結菜ちゃんに本当の事を伝える為だったから。
「結菜ちゃん。猫のミィは、てっちゃんが電話で結菜ちゃんの事、ヒドイ事言ってるところを見てたんだよ。それを伝えようと……鳴いただけなんだ。だから、ミィは何もしてない。それを、分かってあげて……」
僕は、まるでミィが僕でないかのような口調で、結菜ちゃんに伝えた。
「……ミィ?……ミィ!!!ミィがあれからずっと見当たらないの!!!キミ、知らない?」
結菜ちゃん、ミィは僕だよ。
ここにいるよ。
だけど、言えない。
「あたしッミィに八つ当たりしちゃった!ミィがもし、どこにもいなかったら……あたしのせいだッ!!!」
結菜ちゃんは泣き始めてしまった。
「大丈夫だよ。ミィはすぐ、傍にいる。」
僕は、それくらいのコトバしか、かけてあげることができなかった。
「ミィは、結菜ちゃんが大好きなんだよ。」
そう言った時、ものすごい風が窓から入ってきて……
この狭い部屋に、真っ黒なドレスを着た背の高い女の人が立っていた。
「その想い……届けましょうか?」
"好き"ただそれだけのコトバを伝えるのが
とても難しくて
僕はその人に、頼んでしまった。
「何を失ってもいい!だから、だから!結菜ちゃんに伝えて!」
必死だったせいもある。
"何を失ってもいい"なんて、バカだ。
僕は……僕は…………
その人が、悪の組織"黒恋団"だとも知らずに、お願いしてしまったのだった。
Xエンド
2009/5/6 : 加筆修正