運命はいつだって、そこにあった
「好き……」
独り言のように、小さな声でつぶやいた。
「え?」
よく聞こえなかったんだろう。
リアは、腕の中の私を見て、そう訊ねた。
リアの瞳に映る私は、涙でぐちゃぐちゃな顔になって……不細工だった。
それでも抱き続けてくれる、優しい優しい貴方が好き。
「私―……リアの事が……!!!!」
意を決して、
"好き"
そう言おうとした、その時だった。
『ビュゥウウウウンッ!!!!!!!!!』
突然、強風が襲い掛かった。
この部屋の埃が舞い上がる。
そして、その中に浮かび上がる影。
この影、まさか―……
間違いない。
確信した。
「魔女」
私よりも早く、リアはそうつぶやき、かと思えば、もう行動に出ていた。
『ドッ!!』
リアの魔法は、間違いなく魔女に当たっていた。
でも、魔女は当たっていなかった。
「わたしを騙すなんて、いい度胸をしているじゃないか!」
「チッ」
リアが小さく舌打ちした。
攻撃があたっても、相手は魔女だ。
そんなもの、効かないんだ。
私達が、魔女をにらんでいると、魔女は、目を大きく見開き、そして叫んだ。
「お前……!その羽、どうした!!!なぜ……なぜ黒かったお前の羽が……!」
羽?
私は、リアの羽を見た。
うそ…………
「リア……もしかして、リア、天使に―……?」
リアの顔も、驚いた表情に。
私も相当、驚いた。
リアのあの真っ黒な悪魔の羽が…………
真っ白な天使の羽になっていた。
「リア!!!!リア、天使の心を……!!!」
私が、興奮して叫ぶと、リアは嬉しそうな顔で、うなずいた。
「はっ!たとえ天使が二人になった所で、ディアとかいうあの男は、返さんわ!!」
魔女が、負けじと言う。
契約では、天使になったら返す、という約束……
だったはず。
流石は魔女。
考えること、やっぱりズルイ。
でも、ディアは……
「魔女さん。悪いけど、ディアは、……リアと同一人物。だから、もうこの契約は破棄しちゃって。」
「なんだと?!絶対に許さん!!二人とも地獄に送ってやる!!!!」
魔女は、顔を歪め、そして、魔法を使った。
―強い―
それは私もリアも、分かっていた。
だけど、負けられないんだね。
リアは1人で魔法をガードする。
……私は何にもできないの?
「わたしの魔法をガードできるとは……。だが、それもいつまで持つかな?」
魔女は、狂ったように笑う。
「テン!あれ……」
「リア……」
怖い。
怖い。
怖い。
魔女の体を包む闇が、部屋一面に広がる。
この部屋一帯が全て黒になった。
それと同時に、リアは顔を歪め、苦しそうにうなる。
「ぅぐッ……」
「リア!!!!!」
リアは、震える腕を、必死に突き出し、魔法をガードする。
どうしよう。
どうしよう。
リアが……
リアが!
昔、お母さんが言っていた。
魔法を使いすぎると、体がそれに耐え切れなくなって、死んでしまうのよ、と。
「ぅうッ!」
「リア!もういいよ!!!リアが死んじゃう!!!」
止めようとした。
「私が魔法をガードするから!!だから、お願い!一旦休んで!」
でも、リアはやめるどころか、笑顔で語った。
「オレ、テンを一生守るって決めたんだ。昔のような過ちを、繰り返さないために。だから、オレは、絶対に負けない。」
「でもッ」
「大丈夫だから。」
あ……
そう言った時のリアの表情は、昔のままで。
それ以上、何も言えなかった。
「死ねエエエェェェェェェェェェェッ!!!!!!!!!」
魔女は持っている全ての力を出していた。
物凄い強風と、光。
そして、風圧に押しつぶされそうになる。
これを、まともに受けたら?
―……即死だろう。
だが、リアはガードを止めない。
わたしを守ることが、リアの誓いだから。
わたしは、何もできないの?
後、数メートル、数センチ、数ミリ、……
リアのガードにぶつかる。
ジリジリ、という音。
あぁ
もう駄目だ。
死ぬんだ……
……死にたくないよ!!!
そう思った瞬間―……
ウィイイイイーンッ
ウィイイイイーンッ
「?!」
私は、音のする方を見た。
―……!!!
「天界警察!」
天界の警察が、大勢やってきたのだ。
天界の警察は、プロの魔法を使える人ばかりの集まり。
魔女の発した魔法を、警察は全員で止めた。
ピキイイイイイインッ!!!!
耳をふさぎたくなるような音と共に、黒く染まった部屋が、元に戻った。
「魔女!今まで散々天使を悪魔に変えていったという罪で、お前を逮捕する!」
「くそ……ッいつのまに!!!」
魔女は抵抗するが、あっけなく警官に捕まった。
「なぜだ!なぜだ!分からないように隠していた邪気……なぜ!!」
魔女は、ぐだぐだと最初抵抗をしていた。
が、最後、結局あきらめて、天界パトカーに乗って、裁判所へと向かっていった。
「お怪我はありませんか?」
私の前に、背の高い男の人が立ち、尋ねてくる。
警察だ。
「わたしは大丈夫です!それより、リア……あの人を!!!」
私は、リアを指差した。
リアは、ボロボロで、今にも倒れそうだった。
「皆、あの方をスグに治療しろ!」
警官の人は、近くをうろつく警察にそう言うと、優しい顔になって、言った。
「あの方が、私達に通報してくれたのです。」
視線を辿ると、リアがいた。
「魔女がいる、逮捕してくれ、と。」
リアは、そんな事までしてたんだ。
わたしなんかとは、大違い。
「治療、終わりました!」
「そうか、ご苦労。」
警官の人は、「では」と言い残すと、また天界へと帰って行った。
「テン」
「リア!」
近くなる、リアの姿。
「リア―……ありがと。」
わたしがそういうと、リアは頬を赤らめ、「ん」と言った。
部屋から窓の外をのぞく。
もう、ここにいる必要は、ないんだ―……
「リア、帰ろっか!」
「ああ、そうだな!」
もう何の契約にも縛られず、この人間界に入る必要もなくなった私達は、天界に帰ることにした。
私達を知る全ての人の記憶は消させてもらったし、家を消した後、
私は、"天使リア"と共に、天界へと帰っていった。
02エンド
2009/5/6 : 加筆修正