その日から、平凡な日常と引き換えに、非日常な毎日がやってきた。
昔々、あるところに、おばあさんとおじいさんが住んでいました。
おじいさんは、山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯しに行きました。
「おや、あれは何かね」
おばあさんが川で洗濯をしていると、なにやらどでかい桃が、川を流れてきていました。
おばあさんは、その大きな桃を取ると、家へ持って帰りました。
その頃おじいさんは、山で狼に囲まれていました。
「ああ、わしもここで終わりか。」
たくさんの狼が、おなかをすかせているのか、獲物を見る目でおじいさんを見ています。
「ガルルルルル」、と唸る狼が、おじいさん目掛けて襲い掛かります。
「おばあさん、わしゃぁ、先に逝っておるぞ。すまんな。」
おじいさんは目を瞑って、家の方角にそう言いました。
おばあさんは、家でしばらくおじいさんを待っていました。
しかし、あまりに帰りが遅いので、大きな桃を、先に切っておく事にしました。
おばあさんが桃を真っ二つに切ろうと、包丁を指すと、中から「ヤメテ」、と声がしました。
おばあさんはびっくりして、包丁を落としてしまいました。
すると、切れ目が僅かに入った桃が、勝手に真っ二つに割れました。
「これは……神様の贈り物かね―……」
おばあさんは、なんだか嬉しそうにそういいました。
割れた桃からは、とても美しい衣装に身を飾った、しかし衣装には不釣合いなくらい幼い顔の少女が、悠然と出てきました。
少女は、おばあさんを見て、何かをしばらく考えてから、優しく微笑んで言いました。
「おじいさんは、狼に襲われたところを、鬼に助けてもらいました」
と。
おばあさんは、突然そんな事を言い出した少女を、どう思ったのか……分かりません。が、
「―……あの鬼がかい?それはそれは、偉く心変わりをしたものじゃのう」
と、遠くを見るような目で言いました。
01 -end-
2009/5/14 : 加筆修正