××の恋

Uそれが運命、細い糸

リズミは、家の傍の公園のベンチで、本を読んでいました。
ミズノは、そのとき公園の傍を通りました。

その時は気づかなかったようで。
実はすでに、それが運命だった事を。

*

「リズミ、今日は依頼来てないの?」

「うん。イクもゆっくり休憩して。」

ベンチに座り、マイクとおしゃべりする女の子に、トクベツな何かを感じた。
視界から消えることを許さない、ひと時も目を離すことができない。
気が付いたら、声をかけていた。

「あの!それ、なんていう本なんですか?」

声をかけて、気付いた。
唐突にそんな事聞いて、僕はどうするつもりなんだ。
そもそも見ず知らずのオトコに、そんな事聞かれて返事するヒトなんか……

「"ヒーローと泥棒"。」

カノジョはそう言った。

「それ、おもしろい?どんなハナシ?」

「ヒーローが泥棒に恋するハナシ。そこそこおもしろい。」

一度に質問をする僕に、嫌な顔一つせず答えてくれた。
……というか、本だけを見て、ずっと真面目な表情。
変化のないそのカオが、どんな風に笑顔するのか、

僕は気になった。とても、とても。

「キミの名前は?」

「私はリズミ。名字はない。」

カノジョはそういうと、本を閉じ、ベンチから立ち上がり、僕の横を通り過ぎていった。

「リズミ、やばいわよ!」

リズミの手の中、マイクがしゃべる。

「どうしたの、イク。」

「あのオトコ……恋の予感!恋の予感!」

マイクがそう叫ぶと、リズミは顔色一つ変えないで、冷静に尋ねた。

「彼の名前は?恋の相手は?」

「彼の名前、"ミズノ"。恋の相手は―……」


静まり返った道路の脇
1人の少女と一つのマイクの影


「リズミ。恋の相手は、あなた。」


イクはそう、静かに言った。


Uエンド
2009/5/6 : 加筆修正