××の恋

]U恋リズム

リズミが放つ"音"は、敵をどんどん壊していった。
砕け散り、砕け散り、掻き消して、作り直す。
だがそんなリズミの技も、力尽きようとしていた。

「そんなものなのかしら。あなたの実力は?」

ドールは傷つきながらも、まだ力はたくさん残っているようで、余裕の表情を見せてきた。

少なくとも、敵は、ドールと4,5人の黒服だけだろう。

リズミは揺れる腕を必死に固定し、技を出し続ける。
恐らく、テェルの力も残り少ないだろう。
2人は必死に戦った。

そんな時、ティンカの様子が変化したのだ。

"戦い"の意思を持つ。
"恋"のための。
"りずみ"のための。


"守りたい"というたった1つの純粋な"愛"が、そこにはあった。



「ティンカ…?」

リズミは不安そうにティンカを見る。
ティンカの瞳はとてもまっすぐだった。

「僕が……僕がこの仕方のないケンカを止めるよ」

「ケンカですって?何の力もない貴方が、そんな事できるわけないわ―…。その恋心、貰うとしましょう!」

ドールとその仲間が、一斉にティンカに襲い掛かる。
黒い黒い、闇が、白いティンカを纏う。


リズミは涙を流す。

「駄目っ!!純粋な恋を穢さないでっ……!!!」

彼の恋心に、リズミは惹かれていた。
純粋で、もろく、そのくせ強くなりたいと願う心の叫び。
彼にはその心があった。
だからこそ、兄のテェルだって、自分の事を一度も口にしなかったのだろう。
"戦い"という場に、ティンカはふさわしくない―……

涙で霞んだ戦場に、まばゆい光が立ち込めた。
その中に、うっすらと笑うティンカの姿。

「リズミちゃん。僕は大丈夫。キミは安心して、恋を守って―…」

一瞬、ドールや黒服の叫び声が聞こえたかと思うと、次見たときには、何も残っていない空間がそこにはあった。


「―……今までの僕は弱かった―…だけどキミを愛せて強くなれた―……キミの為なら何も怖くない―……愛してる、愛してる」

リズミの、唄。
ティンカの最期のキモチを唄にした―……想いの唄。
リズミに捧げる、恋の唄。

「これだから、ニンゲンの恋は唄いたくないのよ―……」

リズミの頬に伝う涙が、何も無い土を塗らした。

「いや―……いい歌だったぜ」

テェルが優しく微笑んだ。


リズミの心には、純粋で穢れを知らない、ティンカの恋心がつかさどっていた。



*

後に、リズミはイクにこんな事を質問したという。

「あたしの唄は、間違っていた?」

―……と。

その質問に、イクは優しく

「そんな事ないわ。手助けするのも1つの愛なんだもの」

と答えた。

*


「ハロー、リズミ。今日の昼飯、何だ?」

突然現れた人物に、一瞬驚いたリズミだったが、すぐに窓が開いていることに気がつき納得した。

「スパゲッティ。それよりどうしてここにいるの?」

リズミは若干イラッとしながら、長身の男に尋ねた。
すると男はどこか遠くを見るような顔をして、優しく呟いた。

「今日はティンカの命日。一緒に墓参りにでも行こうかと思って…サ」

リズミは「ティンカ―………」と、ドコか懐かしげに答えると、テーブルに置いてあるマイクに向かって叫んだ。

「イクー!テェルと一緒に墓参り行くよ!!」

「はいはいっわかってるわよ、全部丸聞こえなんだから!」


ある昼、公園で手を合わせる、2人の男女と1つのマイクを、見かけた人がいたような。



***END


]Uエンド
2009/5/6 : 加筆修正