今宵、貴方は愛に満たされる
前に、華夜ちゃんは、「ママとパパはいるけどいない」と言っていた。
その時は、あまり深く考えなかったけど、本当はとても辛く悲しい事だった。
それを知ったのは、華夜ちゃんと出逢ってから1週間がたった時だった。
ガチャガチャ……
僕と華夜ちゃんが家で遊んでいると、扉の鍵を開ける音がした。
……誰だろう。
「ママとパパだ……!」
華夜ちゃんは、僕を抱えたまま玄関へと急いで走って向かった。
「おかえりなさい!ママ、パパ!!!」
華夜ちゃんは満面の笑みを浮かべながら、ママとパパのそばに駆け寄った。
「りょーくーん。今度はドコに行く〜?」
「んーそうだなあ・・・海に行こうか!」
「きゃー!やったあ♪その前に痩せなきゃね」
「あはは。十分細いよ。」
あれ?
本当に、あの二人が華夜ちゃんのママとパパ?
だって……。
ママもパパも、華夜ちゃんがそばにいるというのに、まるでいないようなフリをしている。
二人だけでしゃべっている。
出かける話になっても、華夜ちゃんの事が出てこない。
おかしいなあ……どうしてだろう。
華夜ちゃん、どうして―……
「……」
華夜ちゃんの表情を伺うと、通り過ぎて行ったママとパパがいた場所で動かないで、悲しい顔をしていた。
今まで、見たことのない悲しい顔。
「華夜ちゃん、平気だよ。だってくまさんがいるもん。一人じゃないもん。」
華夜ちゃんは、無表情でそう言った。
こういうことだったんだね。
「ママとパパはいるけどいない」の意味。
親子なのに、他人のように扱われる。
親子なのに、目すら合わしてくれない。
親子なのに、親子なのに、親子なのに。
こんなに小さな華夜ちゃんが
1人で抱えていくには大きすぎるくらいの
世界だった。
僕はぬいぐるみだからしゃべれない。
だけど……。
華夜ちゃんと目をあわすことはできる。
華夜ちゃんと遊んであげることはできる。
華夜ちゃんと一緒にいることはできる。
だから、大丈夫。
華夜ちゃんには僕がいる。
「くまさん!一緒に遊ぼうか!!」
うん!!遊ぼう遊ぼう!!!!
この時僕は
華夜ちゃんの本当の心の傷の深さに
気付く事ができなかった。
笑顔の裏の悲しみに
毎日潰されそうになっている華夜ちゃんの事
知ったフリしてるけど
本当は何も分かってなかったんだ。
Yエンド
2009/5/6 : 加筆修正