お嬢様の猫の恋

\涙は恋の証

「貴方は……貴方は……」

力の無い声が後ろから聞こえる。
振り返ると、そこには、今にも泣きそうな顔をした結菜ちゃんがいた。

「貴方は……ミィだったのね……」

ぎゅっと抱きしめられる。
ふわりと髪の毛が頬にあたる。

「―……結菜ちゃん?」

ぽつり、と、冷たい雫が頬に落ちた。
よく見ると、結菜ちゃんの肩は小刻みに震えていた。

「どこか痛いの?!悲しいの?!結菜ちゃん、大丈夫?!」

こんな結菜ちゃんは初めて見た。
泣いている。泣き止まない。
僕は少し、困った。

「ごめんね、ごめんね、ミィ。本当に、ごめんなさい……!!!」

結菜ちゃんの抱きしめる力が次第に増してゆく。

「結菜……ちゃん……」

どうして誤るの?
悪いのは全部僕だよ。
迷惑……かけすぎた。

ゆっくりと、結菜ちゃんは僕から離れる。

「私……ね、私もね……ミィが大好きだよ……!」

泣きながら、頬を緩ませ微笑む結菜ちゃん。

「僕、ね、前みたいに、また結菜ちゃんと一緒に暮らしたい。」

今なら、大丈夫な気がした。
だけど、言った後に後悔した。

―……彼氏がいたんだった。
ダメだよね……

そう思った時、結菜ちゃんは笑顔で―……

「うん!うん!一緒に暮らそう!私も前みたいに一緒に暮らしたい!」

と、言った。

「あ……ありがとう。結菜ちゃん……!」

嬉しかった。
僕の瞳から、一滴の涙が零れ落ちた。

悲しい涙でも、辛い涙でもなく、幸せの涙。

僕はその後、あの彼氏の人は、結菜ちゃんのお兄さんだという事を知った。
「どうして嘘をついたの?」
と聞くと、結菜ちゃんは、
「てっちゃんがいなくなって、私が独りぼっちになっちゃったってミィが責任を感じちゃってたら悪かったな、って思って。」
と言った。

僕のことを考えてくれていた結菜ちゃん。
僕は自分のことばかりで、周りを見る余裕なんかなかったんだ。

気づかなくてごめんなさい。
それから、結菜ちゃんの優しさに、ありがとう。

神様、結菜ちゃんと出会わせてくれてありがとう。

気づいたら、もうリズミちゃんはいなくなっていた。

「まだお礼言ってないのにな……」

だけど、リズミちゃんは、どこかで僕等の他愛のない会話を聞いてるのかもしれない。
そう思うと、僕の心はたちまち温かいモノへと変わっていくのでした。

*

「ミィー!ご飯できたよ!」

「今いくー!」

なんの変わりもないこの日々が、いつのまにか、幸せな日々へと変わっていった。
それは、僕と結菜ちゃんの間に、"愛"が生まれたからだと思うよ。

「リズミちゃん、ありがとう―……」

僕は、そう空に向かって呟いた。
独り言だけどね。


\エンド
2009/5/6 : 加筆修正