お嬢様の猫の恋

U通じない言葉

「みゃぁ」

「どうしたの?」

「みゃぁ!」

「ふふ。コレがほしいの?」

「みゃぁみゃぁ!」

「あげないよー!だってコレは、結菜(ゆいな)のだもーん!」

「みぃ"……」

結菜ちゃん。
結菜ちゃん。
そのフワフワしたストラップ、僕にもちょーだい?
僕の言葉は、きっと通じない。
だけど僕はずっと結菜ちゃんの傍にいたから分かるよ。
そのストラップは、きっとお母さんがくれたんだね。

そう思った。だけど違った。


「コレね、てっちゃんに貰ったの!」


……大宮哲(おおみやてつ)。
それは結菜ちゃんの彼氏。
とっても優しくて、格好よくて、人懐っこい。
前に家に来て、僕を抱っこしてくれた。
居心地のいい場所だった。

結菜ちゃんが幸せになれるなら、それでいい。
そう思ってたけど……
二人が結ばれれば、僕は一体どうなるの?
僕は、結菜ちゃんと離れるの、嫌だよ?


「……ミィには教えちゃおうかなぁ」

「みゃ?」

ミィとは僕の事。
教えるって、何を?

「あたしね、もうスグ20歳でしょ?」

結菜ちゃん、僕はちゃんと、お誕生日覚えてるよ!
12月24日。
ちゃんとプレゼント用意しているんだからね!

「それでねー。あたし、20歳になったら、てっちゃんと結婚するの。」

えっ……
結婚?

「まだお母さんには教えてないから、ミィ、内緒だよ?」

人差し指を唇に当て、僕の顔を覗きこむ。

「……みゃぁ。」

僕は、元気なさげに返事した。

「ありがとう!ミィ、大好き!」

と言って、結菜ちゃんは僕を抱き上げた。
結菜ちゃんのひざの上は、とっても寝心地がいいんだ。
だけど、僕は今、落ち着いてなんかられなかった。
だって、結菜ちゃんが結婚するのが一ヵ月後なんて……

早いよ……。


僕……ちゃんと覚悟決めてたはずなのに……。

どうして人間なんか、好きになっちゃったの?
叶わぬ恋を……どうして選んでしまったの?


プルルルルルッ

「あ……電話……ミィ、ちょっとごめんね。」

結菜ちゃんは、携帯をとって、そして部屋を出て行った。
僕だけ残されて……。

きっとあの電話のかけ主はてっちゃん。
結菜ちゃんの話し声は、とっても楽しそう。
僕は楽しそうに話してくれる結菜ちゃんが大好きだった。
ずっと一緒にいたかった。

だけど……
てっちゃんの方が……
結菜ちゃんは、大事なんだよね?

こんな恋……
忘れちゃいたい……

「みゃぁ……みゃぁみゃぁ……」

泣いて、泣いて、泣いて、泣いて。

「みゃぁあ!」

好きだと叫んでみても……


「みゃぁ!!!」


結婚なんかしないでと叫んでみても


「みゃ……」

通じないんだ。
この言葉は―……


猫であることが……嫌だよ……。
結菜ちゃん……。


Uエンド
2009/5/6 : 加筆修正