小さな小さなタンポポの恋

[タンポポの約束

僕が気付いたときには、もうどこにも”リズミ”や”黒恋団”はいなかった。
そして、”あの子”もいなかった。

残ったのは、あの子が居たことを証明するコンクリートと壁の間にできた小さな穴と
あの子の落として行った葉っぱだけ。

僕の心の中に残ったものは、あの子の笑顔と強さと、いつも元気付けてくれた言葉。
それと、あの子の願いの言葉。

僕は、あの子の願い、かなえてあげられたかな?

”空が見たい”って言ってたよね?
人間になったら、自由に動けるから、見れたよね。
ほら、見上げてみて。空はこんなにも広く輝いている。
知ってた?
空はどこまでも続いているんだよ。

僕は一人じゃない。
ずっと君のこと、想ってる気持ちは変わらない。

同じ空の下、いろんな人がいるこの町で、今日も僕は屋根の上、空を見上げる。

 「おーい!タンポポー!屋根の上のタンポポー!約束果たしに来たぞー!」
 
 にっこり微笑み強気な態度で僕に話しかけてきたその人間の女の子は

わかった。
あの子だ。
あの子に違いない。

でも、なんで……?

 「いっしょに空みるっていったでしょー!私一人だけじゃ意味ないのー!!!」

あぁ、そうか。

 「じゃあ……屋根の上においでよ!」
 
僕とあの子の約束は

 「うん!今すぐ行くよ!」

”いっしょに空を見る”ことだった。

 「綺麗だね。」

二人いっしょじゃなきゃ

 「うん。綺麗だね―……。」

意味がない約束。

 「またいっしょに見ようね、タンポポ。」

この約束だけは

 「うん。また、いっしょに―……ね。」

”リズミ”でも忘れさせることができなかった約束。

 「私はここから見えるあのマンションの7階に住んでるからね。」

僕はいつでもここにいる。

 「ここからでも見える……。いつでも手を振ることができるね。ぼくは葉だけど―……」

僕はいつでもこの屋根の上にいる。

 「うん―……。また、来るからね。」

あの子は、屋根からそうっと下りると、下で待っていた男の人と帰って行った。
きっとあの時の新聞配達さんだろう。
幸せになったんだ。

 「僕の幸せは君が幸せになれること」

ずっとずっと、この想いは変わらない。
約束は果たせたけど、またいつか会いにきてね。
こんどは新聞配達さんといっしょに、屋根にのぼって……



花屋の屋根の上、今日も太陽はキラキラと輝いて、とてもまぶしかった。


[エンド
2009/5/6 : 加筆修正